日比谷ステーション法律事務所 HIBIYA STATION LAW OFFICE

投資組合の基礎知識

投資事業有限責任組合の持分の募集および私募

1.投資事業有限責任組合

従前の中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律が改正され、平成16年4月に投資事業有限責任組合契約に関する法律(以下、LPS法といいます。)が成立し、組合の事業目的の制約が大幅に緩和されたことで、大企業や公開企業への出資のほか、金銭債権の取得や融資等を行うことが可能となりました。投資事業有限責任組合(LPS(Limited Partnershipの略))は、無限責任組合員(General Partner、GP)および有限責任組合員(Limited Partner、LP)から構成される組合です(LPS法2条2項)。GPは、業務執行権限を有するLPSの運営者であり、組合の債務について無限責任を負います。LPには業務執行権限はなく、組合の債務については出資金額を限度とした責任(有限責任)を負います。LPSは、組合の債務に対して自らの出資額までしか責任を負わない組合員(LP)を想定した組織であるというところに特徴があり、この点は、LPSと民法上の任意組合(民法667条)との最大の相違点でもあります。LPSの当事者となる組合員は法人でも構いません。
LPSは、実務上、集団投資スキームと呼ばれる事業体(Entity)の1つです。集団投資スキームとは、投資家から金銭などの出資を受け、当該資金を用いて事業および投資を行い、それにより生じた利益を出資者に配分する仕組みのことをいいます。
LPSについては、こちらの投資事業有限責任組合の概要も参照して下さい。

2.投資事業有限責任組合の持分の有価証券性(有価証券の分類)

LPSの持分とは、当該組合契約を締結し出資金を出資する投資家の権利であり、原則として第二項有価証券(みなし有価証券)にあたります(金融商品取引法(以下、金商法といいます。)2条2項5号)。第二項有価証券とは、金商法2条2項に規定される有価証券のうち、証券(券面)の発行は可能であるが発行されていない権利(有価証券表示権利、金商法2条2項本文)で、有価証券とみなされるもの(金商法2条2項柱書。これは第一項有価証券となります。)を除く、証券(券面)の発行はされないが、有価証券とみなされる権利(同項後段)のことを指します。第一項有価証券については、社債の募集および私募を参照して下さい。
会社が、新たに発行されるLPSの持分取得のために出資を行う投資家を勧誘する行為が、当該持分の「募集」および「私募」です(金商法2条3項3号)。金商法は、第一項有価証券と第二項有価証券とを区別し、各々につき募集および私募について異なる要件を設けております。

3.投資事業有限責任組合の持分の募集(金融商品取引法2条3項3号)

第二項有価証券である投資事業有限責任組合の持分の募集は、第一項有価証券と同様に、「新たに発行される有価証券」の取得申込みの勧誘(2条3項)のうち一定の要件に該当するものをいいますが、要件は、第一項有価証券の募集とは異なります。

(1)募集の要件

第二項有価証券においては、その取得勧誘に応じることで、当該勧誘の目的である有価証券(LPSの持分)を相当程度多数の者が取得することになる勧誘が、募集にあたります(金商法2条3項3号)。この「相当程度多数」とは、500名以上と定められています(金融商品取引法施行令(以下、施行令といいます。)1条の7の2)。第二項有価証券においては、取得勧誘に応じた当該有価証券の取得者が500名以上となることが、当該勧誘が募集に該当する要件となります。
第一項有価証券の場合、勧誘の結果、実際に有価証券を取得したか否かにかかわらず、取得勧誘の相手方の人数で募集の要件を画しています。しかし、第二項有価証券の場合には、取得勧誘の相手方の人数ではなく、当該勧誘に応じることによってLPSの持分を実際に取得した者(所有者)の人数で募集の要件を画しています。これは、LPSの持分は、社債や株券といった、発行の際に内容がすでに確定している有価証券とは異なり、投資家の需要を見極めながら契約交渉を通じてLPS契約の内容が確定されていくため、どの時点の行為が、取得勧誘行為に該当するかを判断することが困難であるとの理由からです。
また、LPSの持分の取得勧誘が募集にあたるかの判断は、当該勧誘を開始しようとする時点においてなされるため、当該時点で500名以上のLPを見込んでいる場合には、結果として500名未満の投資家しかLPとならなかったとしても、募集に該当することになります。この点については、下記4.(1)の該当部分も参照して下さい。

(2)募集における開示規制(ディスクロージャー規制)

第二項有価証券は、原則として、開示規制の適用除外となっています(金商法3条3号)。第二項有価証券は流動性が低く、かつ、流動性の低い有価証券には開示規制は不要との考え方から、このような適用除外の規定が設けられているとされています。ただし、第二項有価証券であっても、例外として、開示規制の対象となる場合があります(金商法3条3号イロハ)。金商法2条2項5号に規定される権利のうち、出資対象事業が「主として有価証券に対する投資を行う事業であるもの」として政令(施行令2条の9第1項)で定める権利(「有価証券投資事業権利等」)には、開示規制の適用除外は認められません(金商法3条3号イ)。すなわち、LPSが総出資総額の50%を超える額を有価証券(みなし有価証券を含みます。)に投資する場合には、当該組合の持分には開示規制が適用されます(金商法3条3号イ、施行令2条の9第1項)。
開示規制の回避のために、募集に該当する取得勧誘を分割して行い私募の形式をとるといった、脱法的な取得勧誘行為を防止するための規定(いわゆる「6ヶ月通算」規定。金商法2条3項2号ハ括弧書、施行令1条の6参照。)は、第二項有価証券には適用されません。したがって、LPSの持分の取得勧誘において、複数回にわたって勧誘が行われた場合でも、個々の勧誘に応じた取得者の数が499名以下であれば、異なる勧誘により当該有価証券を取得することとなった者の数に関係なく、当該勧誘は募集には該当せず、私募となります。
なお、個々の勧誘により取得者となった者が499名以下であっても、それら全ての勧誘で全体として500名以上となれば、有価証券報告書の提出が義務づけられる場合があります(金商法24条1項4号、5項、施行令4条の2第5項)。

4.投資事業有限責任組合の持分の私募

(1)私募の概要

LPSの持分の私募とは、取得勧誘に応じることにより、当該持分を取得することとなる者が499名以下である場合の勧誘を指します。第二項有価証券の場合には、第一項有価証券についてのプロ私募や特定投資家私募(社債の募集および私募を参照して下さい。)に相当する概念は存在しません。
500名以上に、LPSの持分の取得勧誘を行う場合でも、結果として当該持分の取得者が499名以下となる場合には、当該勧誘は、募集にはあたらず私募になります。なお、当該取得勧誘が、募集および私募のどちらにあたるかの判断は、当該勧誘行為を開始しようとする時点において判断されます。したがって、取得勧誘開始時に取得者を500名以上とする見込みであれば、結果的に取得者が499名以下であっても、当該勧誘は私募ではなく募集に該当します。開示規制を受けないために、確実に、LPSの持分の取得勧誘を募集に該当しない、つまり私募として行いたい場合には、取得者が500名以上となる見込みを排除する必要があります。そのためには、勧誘を行う相手を499名以下にするか、勧誘の相手方の数にかかわらず取得させる人数を499名以下に限定することを前提に勧誘を行う等の方法があります。実務的には、GPが勧誘に際して配布するLPSに関する目論見書(PPM、Private Placement Memorandum)において、LPの人数を499名以下に限定することを明記することにより対応することが多いようです。

(2)私募における開示規制(ディスクロージャー規制)

総出資総額の50%超を有価証券に投資するLPSの持分の募集は開示規制の適用を受けます(金商法3条3号イ)が、募集ではなく私募であれば、開示規制の対象とはなりません(金商法4条1項、5条1項)。よって、LPSの持分の私募は、金商法4条1項本文で要求されている届出の必要はありません。
但し、開示規制を受けない当該LPSの持分の私募の場合にも、有価証券届出書を金融庁に提出していないこと等についての取得勧誘の相手方に対する告知および書面の交付が義務づけられる場合があります(金商法23条の13第4項2号イ、5項、特定有価証券開示府令20条)。

5.適格機関投資家等特例業務(金商法63条)

上記3.(2)で説明したように総出資総額の50%超を有価証券に投資するLPSの持分の募集は、開示規制の対象となります(金商法2条2項5号、3条3号イ、施行令2条の9第1項)。したがって、本来はLPSの組成前に有価証券届出書の作成および、金融庁への提出(金商法4条1項)等が必要になります。
また、 GPになろうとする者が、投資家(LP候補)にLPSへの出資を勧誘(募集および私募)する場合(これを自己募集といいます。)には、第二種金融商品取引業の登録をしなければなりません(金商法2条8項7号へ、28条2項1号、29条)。また、GPがLPSの運営を行う場合には、自己運用として投資運用業の登録をしなければなりません(金商法2条8項15号ハ、28条4項3号、29条)。
しかし、上記のような行為規制を遵守するには多大なコストが必要となるため、実務上は、GP(となろうとする者)は簡易な届出で足り、有価証券届出書の作成・金融庁への提出が免除される適格機関投資家等特例業務として、LPSを組成・運用することがほとんどです(金商法63条)。
適格機関投資家等特例業務に該当するための主な要件については、投資事業有限責任組合の概要を参照して下さい。実務的には、適格機関投資家等特例業務の要件を充足し、かつ、それを維持することを、PPM及びLPS契約書に明記することが重要なポイントとなります。

【注】 平成24年4月1日より金融商品取引法の改正により投資ファンド(投資事業有限責任組合、任意組合、匿名組合、等)に関する適格機関投資家等特例業務の届出制度が変更されます。詳細は、以下の基礎知識をご参照ください。

適格機関投資家等特例業務に係る届出事項の追加(平成24年4月1日施行金融商品取引法改正)

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