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国際法務の基礎知識

消費者契約における準拠法選択(通則法11条)

1.通則法11条における定義および準拠法選択の概要

法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます。)11条は、消費者を、「個人(事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合を除く)をいう。」、事業者を、「法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。」と定義し、消費者契約を消費者と事業者の間で締結される契約であり、労働契約以外の契約を指すとしています。

  1. 当事者が選択した準拠法が消費者の常居所地法ではない場合
    この場合には、消費者が事業者に対し、常居所地法(the law of the habitual residence)上の強行規定(Mandatory Provisions)を特定し、その適用を求める意思を表示したときに限り、その事項については、選択した準拠法の適用に加えて当該強行規定も準拠法として重畳的に適用されます(通則法11条1項)。強行規定とは、当事者の合意の如何にかかわらず、適用される法律上の規定のことです。この意思表示は、条文に表示時期の限定がなされていないことから、契約締結時に行う必要はなく、契約締結後、または紛争が生じた後に、裁判上あるいは裁判外で行った場合でも、同条項が適用されます。但し、裁判外で消費者が当該意思表示を行った場合、当該事案が訴訟となったときには、消費者の主張立証の必要性が問題となります。
  2. 当事者が選択した準拠法が消費者の常居所地法である場合
    この場合、当事者が選択した法と消費者の常居所地法が一致します。したがって、通則法7条規定の原則どおり、当事者の選択に従い消費者の常居所地法が準拠法として適用されます。
  3. 当事者による準拠法の選択がない場合
    この場合,通則法8条の規定の適用は受けず,消費者の常居所地法が準拠法として適用されます(通則法11条2項)。

2.通則法11条の保護対象

通則法11条の保護対象となるのは、すべての消費者ではありません。

  1. 消費者が自らの意思で国境を越え事業者の事業所所在地において契約締結を行う場合、および事業者の事務所所在地において債務の全部の履行を受ける旨の契約を締結する場合(このような消費者を「能動的消費者」といいます。)には、11条は適用されません(通則法11条6項1号2号本文)。但し、このような能動的消費者であっても、事業者からの「勧誘」(Solicitation)を受け、契約締結に至った場合には11条の適用対象となります(通則法11条6項1号2号但書き)。但書きの要件となっている「勧誘」とは、但書きの趣旨に鑑みて、能動的消費者への適用が正当化される程度に個別的、具体的かつ積極的な働きかけが必要とされています。たとえば、電話により個別的に契約締結を働きかける等の行為です。
  2. 事業者が、消費者契約の締結の当時、消費者の常居所地を知らず、かつ、知らなかったことに相当の理由がある場合、または相手方が消費者でないと誤認し、かつ誤認したことに理由がある場合にも、11条は適用されません(通則法11条6項3号4号)。

3.通則法11条3項から5項の特則

消費者契約の方式について、通則法は11条3項から5項において特則を設けています。

  1. 消費者契約の成立の準拠法として消費者の常居所地法以外の法が選択された場合
    消費者契約の方式の準拠法は、通則法10条により、当該成立時の準拠法と行為地法のいずれかによる(これを「選択的連結」といいます。)のが原則ですが(通則法10条1項、2項)、通則法11条は、消費者が消費者契約の方式について、その常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思表示をすることを認めています(通則法11条3項)。この意思表示を行った場合には、契約成立の準拠法によることはできず、また行為地法との選択的連結も排除されるため、消費者契約の方式については、適用すべき旨の意思表示をした強行規定によって有効性が判断されることになります。
  2. 消費者契約の成立の準拠法として消費者の常居所地法が選択された場合
    消費者契約の方式はその常居所地法と行為地法との選択的連結となるのが原則ですが(通則法10条1項、2項)、消費者契約の成立の準拠法として消費者の常居所地法が選択された場合にも、消費者が当該消費者契約の方式について、専らその常居所地法によるべき意思を事業者に表示した場合には、選択的連結は排除され、消費者の常居所地法によるとされています(通則法11条4項)。
  3. 準拠法の選択がない場合
    この場合には、法律行為の方式についての原則たる通則法10条の適用は排除して、消費者契約の方式は消費者の常居所地法によります(通則法11条5項)。

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