日比谷ステーション法律事務所 HIBIYA STATION LAW OFFICE

国際法務の基礎知識

外国における判決の日本における効力および執行手続

1.国家主権と外国裁判所による判決の効力

ある国の裁判所が判決を下すのは、国家主権(National Sovereignty)の一形態である裁判権(Jurisdiction)の行使にあたります。国家主権は、原則として、自国の領域内においてのみ行使されるものです。したがって、いかなる国家も、国際条約のない限り、外国裁判所の判決の効力を承認する義務を負わず、外国裁判所の判決は、当然には自国において効力を有するものではありません。
アメリカに居住するXが、日本に資産を有するYとの売買契約上のトラブルから、Yに対して、アメリカの裁判所に売買代金支払請求訴訟を提起して勝訴判決を得たものの、Yが判決に従わないような場合を考えてみましょう。この場合、Xとしては、アメリカで得た判決に基づいて、日本にあるYの資産に強制執行をしたいところです。しかし、当該判決が日本では効力が生じないとすると、Xは、改めて日本の裁判所でYに対して提訴し、勝訴判決を得る必要が生じます。しかしながら、日本の裁判所がアメリカの裁判所と同一の判決を下すとは限らないため、Xが日本での裁判で敗訴することもあり得るのです。このような事態は、紛争の統一的解決を困難にし、また当事者にとっても時間や費用の面で大きな負担となるだけでなく、国際取引の安定を害することになります。
裁判権が国家主権の発動の一形態であるからといって、一定の要件のもと、自国において外国判決の効力を承認(Recognition)し、それに基づく執行(Enforcement)を許容することが許されないわけではありません。また民事訴訟は、当事者の私法関係を確定するものであることから、外国判決であっても、日本国内において効力を認めることは、むしろ国際取引の安定にとっては有益である場合も多いことから、多くの国家が、一定の要件のもと、外国判決の自国での承認および執行を許容する国内法規を規定しています。日本では、民事訴訟法および民事執行法が、外国判決の日本における承認および執行を許容する要件を規定しています(民事訴訟法118条、民事執行法24条)。

2.外国裁判所による判決の日本における承認手続(民事訴訟法118条)

日本では、民事訴訟法(以下、民訴法といいます)118条の要件を満たしさえすれば、特別の手続を経ることなく、外国判決は当然に日本国内において効力を有することになります(これを外国判決の「自動承認(Automatic Recognition)」といいます)。以下、民訴法118条規定の各要件を検討します。外国判決の日本における執行については、後述します。

(1)外国裁判所の確定判決であること(民訴法118条本文柱書き)

外国裁判所の確定判決(Final and Binding Judgment)とは、外国の裁判所が、名称、手続、形式の如何を問わず、私法上の法律関係につき当事者双方の手続的保障が尽くされた上で終局的になされた裁判をいい、決定、命令等と称するものも、右性質を有すればこれに該当します(最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁)。ここでいう「外国裁判所」とは、未承認国家の裁判所も含まれますが、国際司法裁判所(International Court of Justice)のような国際裁判所は含まれません。

(2)判決を行った外国裁判所が裁判管轄権を有すること(民訴法118条1号)

外国判決の承認のために、民訴法は、承認国たる日本ではなく、判決国裁判所が当該事案に対し裁判管轄(Jurisdiction)を有することを要件としました(当該判決国の裁判管轄を間接管轄、日本の裁判所の裁判管轄を直接管轄といいます。)。
どのような場合に判決国が裁判管轄を有するかについては、これを直接に規定した法令がなく、根拠となる条約や明確な国際法上の原則も未だ確立されていないため、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当であるとされています。具体的には、日本の民訴法が定める土地管轄の規定に準拠することを基本としつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断すべきとされています(最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁)。さらに、平成23年4月28日に成立した「民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律」(平成24年1月1日施行予定)により追加される民事訴訟法第3条の2から第3条の12に定める日本の国際裁判管轄に関する規定に照らして、判決国に裁判管轄が認められるかがポイントになると考えられます。

(3)敗訴被告への送達(民訴法118条2号)

民訴法118条2号は、敗訴被告に対する、手続保障のための規定です。適切な送達というためには、(ⅰ)民事訴訟手続に関する法令に従ったものであることは必要ありませんが、(ⅱ)被告が現実に訴訟手続の開始を了知し、防御権の行使に支障がない方法でなされる必要があります。さらに、(ⅲ)判決国と日本が司法共助条約を締結しており、訴訟手続開始の送達が当該条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しなければなりません。
敗訴被告が、訴訟の開始に必要な呼出しもしくは命令の送達を受けていないにもかかわらず、応訴した場合には、上記適切な送達があった場合と同様に民訴法118条2号要件は充足されます。ここでいう、「応訴(Appearance)」とは、応訴管轄発生の場合とは異なり、被告が、防御の機会を与えられ、かつ裁判所が防御のための方法をとったことを指し、また管轄違いの抗弁のみをなすために応訴した場合であっても「応訴」に該当します(最判平成10年4月28日民集52巻3号853頁)。

(4)外国判決の内容および手続が日本の公序に反しないこと(民訴法118条3号)

公序(Public Policy)には、判決内容についての公序である実体的公序と、判決手続きについての公序である手続的公序があります。民訴法118条3号は、外国判決が、実体的公序および手続的公序の双方に反しないことをその規定内容としています。公序に違反しているかの判断は、(ⅰ)外国判決を承認・執行した場合の結果の不合理性、および(ⅱ)当該判決の事案と日本との牽連性からなされるべきとの見解が一般的です。
公序の審査対象は、外国判決の主文だけではなく、その理由中の判断も含むとされていますが、公序の審査は、判決国裁判所の行った法解釈や事実認定を再度行うものではなく、また外国判決自体の効力を否定するものではないため、「実質的再審査禁止原則」には抵触しないと考えられています。実質的再審査禁止の原則は、明文規定は執行判決の付与要件としてのみ規定がありますが(民事執行法24条2項)、外国判決の承認の審査(民訴法118条各号)についても、学説および実務ともに、当然に当該原則の適用をうけることを前提にしており、争いはありません。
アメリカでは、被害者の実損害額を大幅に超える懲罰的な賠償金の支払いを損害賠償訴訟において認めることがあります(懲罰的損害賠償、Punitive Damages)。懲罰的損害賠償は、原状回復を目的とする日本の損害賠償制度の基本原則と相容れず、我が国の公序に反すると考えられています(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)。

(5)相互の保証(民訴法118条4号)

相互の保証(Mutual Guarantee)とは、日本における承認・執行を求めている外国判決の判決国が、日本が承認・執行を行うのと同様の条件で、日本の判決を承認・執行することを法的に保証していることをいいます。かかる要件は、日本の判決の承認および執行を外国に対して促すという政策的な目的等により定められました。相互保証の有無の判断は、判決国に当該判決の効力要件が、承認国たる日本の民訴法118条各号所定の条件と重要な点で異ならないかによって決せられます(最判昭和58年6月7日民集37巻5号611頁)。
当該要件については、外国判決の判決国法と日本の承認条件が全く同一であるということは現実的ではないとの理由や、要件具備の判断には両国の制度比較を伴うことから司法判断にそぐわない等の理由から、批判が根強く存在します。
なお、ベルギー(東京地判昭和35年7月20日下民集11巻7号1522号)と中国(大阪高判平成15年4月9日判時1841号111頁)については相互の保証を否定した裁判例があります。

3.外国判決の日本における執行(民事執行法24条)

(1)執行判決手続の概要

民訴法118条各号の要件を満たせば、外国裁判所による判決は、日本において当然に効力を有することになりますが、日本の確定判決と異なり、直ちに執行力が認められるわけではありません(日本の確定判決の執行力について、民事執行法22条1号を参照)。したがって、当該外国判決に基づく執行を日本で行うには、別途判決手続によらなければならず、当該手続を「執行判決訴訟」といいます(民事執行法24条)。民事執行法24条は、執行判決を求める「訴え」についての規定なので、当事者は、裁判所に訴えを提起し、訴訟審理を経て、判決(執行判決)を受ける必要があります。
執行判決訴訟により得た執行判決に、自動承認された外国判決を合わせたものが債務名義となり(民事執行法22条6号)、これに基づき、外国判決の勝訴原告は、敗訴被告に対して、日本国内における強制執行を行うことになります(民事執行法25条)。

(2)執行判決を求める訴訟手続の法的性質

執行判決訴訟の法的性質については、争いがあります。(ⅰ)確認訴訟説は、執行判決訴訟は、外国判決が元来有している執行力を、日本において「承認・確認」することを目的とする訴訟手続であるとの立場です。この見解に立つと、執行されるのは外国判決そのものとなります。(ⅱ)形成訴訟説は、外国判決は執行判決訴訟を経て、日本における執行力が初めて「付与」されるとする立場に立ちます。したがって、外国判決と日本における執行判決とが一体となって執行されると考えます。従来は、(ⅰ)の見解が支配的でしたが、近年は(ⅱ)の見解が有力です。

(3)審理事項および執行判決

執行判決訴訟における訴訟審理は、外国判決の当否の調査、つまり、判決国裁判所による事実認定や法解釈には及びません(実質的再審査禁止原則(民事執行法24条2項))。我が国の外国判決の承認手続は、既述した通り「自動承認」が採用されていますが、民訴法118条各号要件の具備は執行判決の審理対象となっていますので(民事執行法24条3項)、執行判決手続の中で、承認要件は改めて裁判所により審理されることになります。また承認要件でもある、外国判決が確定していることも執行判決の要件となります(民事執行法24条3項)。執行判決の審理事項についての詳細は、同様の要件が問題となる承認要件について記載した上記「2.外国裁判所による判決の日本における承認手続」を参照して下さい。
審理の結果、要件を具備していると判断された場合には、執行判決が下されます。執行判決はその主文において、外国裁判所の判決による強制執行を許す旨の宣言が明記されなければなりません(民事執行法24条4項)。要件が満たされないと判断された場合には、裁判所は訴えを却下しなければなりません(民事執行法24条3項)。

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