知的財産権の基礎知識
平成23年特許法改正のポイント
経済産業省が提出した「特許法等の一部を改正する法律案」が平成23年5月31日,国会で可決されました。
今回の特許法改正の骨子は以下のとおりです。
特許権者から特許ライセンスを受けていたライセンシーは,特許権者であるライセンサーが特許権を第三者に譲渡した場合,当然に特許権を譲り受けた第三者に対して自己の通常実施権を主張することができるようになりました(第99条,当然対抗制度)。
改正前は,特許法第99条1項の規定上,ライセンシーは通常実施権の「登録をしたとき」のみ,ライセンサーから特許権を譲り受けた第三者に対して通常実施権を主張できる制度となっていました。
しかし,ライセンス契約においてライセンサーが通常実施権の登録に応じることは少なく,ライセンシーは不安定な立場に立たされていました。
今回の改正により,ライセンシーの通常実施権の保護が厚くなったということができます。
他方,特許権を譲り受けることを検討している企業等においては,特許権者がライセンス契約を締結しているかどうかの調査や譲渡契約に表明保証条項を入れる必要性の検討が必要になると考えられます。
共同発明者の一部が欠けた状態で特許登録がされた場合,当該共同発明者は特許権の移転を訴訟で請求することができることとなりました(第74条)。
共同研究者の利益を適切に保護することが改正の趣旨とされています。
中小企業や大学等に対する特許料の減免期間が改正前の「3年」から「10年」へと延長され,同時に対象となる中小企業の範囲が拡大されました(第109条)。
中小企業等が特許権を取得・保持しやすくするための改正ということができます。
発明者自身の行為に起因して公知となった発明については,公知となった日から6月以内に出願することにより新規性・進歩性を失わせない扱いとなりました(第30条2項)。
改正前は,発明者自身による発表で公知となった発明であっても,一定の限られた博覧会等で発表されたもの以外は新規性・進歩性を失う扱いとなっていました。
今回の改正により,発明者自身の行為で公知となった発明につき特許登録が認められる例外の範囲が広がったということができます。
特許無効審判において無効審決を出す場合には,その前に「審決の予告」により特許権者に訂正請求の機会を与えることとし(第164条の2),その反面,無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は,訂正審判の請求が禁止されることになりました(第126条2項)。
改正前は,改正前第126条2項により,無効審判の審決に対する取消訴訟の提起から90日以内は訂正審判の請求ができたため,出訴後に特許権が訂正されると事件が無駄に裁判から審判に差し戻される弊害があったため,この弊害を防止する趣旨で改正されたものということができます。
特許侵害訴訟において原告の勝訴判決が確定した後に特許無効審決が確定した場合や原告敗訴判決が確定した後に特許訂正審決が確定した場合に,それらの審決確定を再審事由として主張することを禁止し,紛争の蒸し返しを防止することとなりました(第104条の4)。
権利内容の迅速な確定のため,特許権の有効性の判断を「全ての請求項」についてではなく,「一群の請求項」について行うための規定が整備されました(第126条3項,第134条の2第2項・第3項,第167条の2)。
無効審判の確定判決について,同一の事実及び証拠に基づいて争えない者の範囲を「当事者及び参加人」に改めました(第167条)。
改正前は,「何人も」同一の事実及び証拠に基づいて特許無効審判を請求することができないと規定されており,無効審判の確定審決に第三者効が認められていましたが,改正により第三者効は廃止され,当事者や参加人以外の第三者は同一の事実及び証拠に基づいて無効審判を請求することができることになりました。
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