日比谷ステーション法律事務所 HIBIYA STATION LAW OFFICE

企業訴訟の基礎知識

未公開株式の株価算定方法(中小企業における株式買取請求紛争)

未公開株式の株価が問題となる場面

上場株式であれば、証券取引所において多数の市場参加者による多数の取引の集積を通じて、その時々の適正な株価が形成されています(もっとも、上場株式についても、合併、株式交換、株式公開買付(Take Over Bid, TOB)の場面等では、会社の支配権や当事会社間の事業のシナジー(Synergy、相乗効果による追加的価値)等の評価に関連してその株価についても争いが生じます。)。

これに対し、未公開株式の場合、(1) 投資家が新たに株主として出資をする場面(第三者割当増資)、(2) 株式を譲渡する場面、(3) 株式を相続する場面、(4) 複数当事者による共同事業(Joint Venture、JV)を解消する際に株式を引き取る場面、(5) 株式譲渡制限会社(株式の譲渡に取締役会等の承認を必要とする会社)において、会社が当該譲渡を不承認とした際に、株主が株式買取請求権を行使する場面、(6) 合併、株式交換等に反対した株主が会社法の規定に基づき株式買取請求権を行使する場面、等いろいろな場面で、その株価が問題となります。
また、未公開株式を巡る詐欺等のトラブルが後を絶ちません。これも未公開株式の株価が判然としないことに一因があるといえます。

では、未公開株式の株価の算定はどのように行われるのでしょうか。会社法上は、上記(5) の株式譲渡制限会社において、会社が譲渡を不承認とした際に、株主が株式買取請求権を行使した場合、その買取価格を裁判所が決定するときは、「承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」(会社法144条3項)と定められています。また、会社法上、上記(6) の合併、株式交換等に反対した株主が株式買取請求権を行使した場合の買取価格は「公正な価格」(会社法785条1項、806条1項)と定められています。しかし、いずれも具体的な価格算定方法は明らかではありません。本稿では、これらの株式買取請求権が行使され訴訟となった最近の裁判例をご紹介します。

なお、相続税に関する財産評価基本通達において、相続税額を算出するための詳細な未公開株式の評価方法が定められていますが、一般的に評価額が低めになり、株式買取請求権行使の際の株価評価方法としては適切ではないため、本稿では類似業種比準方式の簡単な紹介にとどめることとします。

未公開株式の株価算定方法

未公開株式の株価算定には、多様な方法があります。以下では、代表的な算定方法の概要をご紹介します。結論的にはいずれも一長一短があります。

1.純資産方式

会社の純資産(総資産の額-総負債の額)を基にして、株価の算定を行う方式です。帳簿(貸借対照表(B/S))上の純資産を基にするため、客観性に優れています。しかし、市場取引における実勢の反映の点に問題があるほか、知識集約型・労働集約型の会社の収益獲得能力等が反映されない点に問題があるとされています。一般に、清算が予定されている会社の株価(清算価値、Liquidation Value)の算定に適しているといわれます。逆に、今後も永続的に運営されることが予定されている会社の株価(継続企業価値、Going Concern Value)の算定には難があります。基準となる純資産額の算出方法により、簿価純資産法、修正簿価純資産法、時価純資産法に分かれます。

(1) 簿価純資産法

1株の価格 = 簿価純資産額 ÷ 発行済株式総数

簿価純資産額とは、会計帳簿上に記載されている資産から負債を控除した純資産額のことです。

(2) 修正簿価純資産法

1株の価格 = 含み損益を加味した簿価純資産額 ÷ 発行済株式総数

会計帳簿上の純資産額を基本にしながら、含み損益を評価に加味して株価算定を行います。含み損益を評価に加味するので、簿価純資産法より評価時の実態的な資産価値が反映されます。しかし、含み損益の額につき当事者間で評価が割れる可能性があります。

(3) 時価純資産法

1株の価格 = 時価純資産額 ÷ 発行済株式総数

時価純資産額とは、時価評価された資産から時価純資産額を算出する純資産額です。しかし、全ての資産を適切に時価評価することは困難であり、紛争当事者間でその適切性が争われることになります。

2.収益方式

会社のキャッシュフローを基に株価の算定を行う方式です。キャッシュフローとは、税引後の純利益に減価償却費等を加算した上で、資本支出額(事業の継続に必要な不動産、設備等の取得に要する金額)を控除した額を指します。将来の収益獲得能力等を株価に反映する点で優れていますが、収益能力算定の基礎となる、キャッシュフローの算出等に恣意性が入る点が問題とされています。キャッシュフローについて、DCF法は会計上の収入として考え、収益還元法は利益として考えます。

(1) 収益還元法(直接還元法)

1株の価格=(将来予測される単年度の税引後純利益÷資本還元率)÷発行済株式総数

将来獲得すると予想される1年分の税引後利益を、資本還元率という特殊な数値で還元して、株価を算定する方法です。
「資本還元率」は、市場金利・長期国債利回り・評価対象会社の調達金利等を基に、これに危険率を加味した上で決定されるとされ、また、「危険率」は、評価対象会社の規模・業種・経営環境・市場動向・カントリーリスク等を総合的に判断して決定するとされます。しかし、将来予測に基づく単年度の税引後純利益や、種々の要素を総合的に勘案する資本還元率は、いずれも、紛争当事者間で納得のいく数字に収斂することは困難といえます。

(2) DCF法(Discounted Cash-Flow Method)

1株の価格=将来予測される年度別収益を現在価値に割引いた合計÷発行済株式総数

会計帳簿上の利益ではなく、将来予測される年度別収益(フリーキャッシュフロー)を現在価値に割り引いて、株価を算定する方法です。会計帳簿上の利益では、実際には出金がないにもかかわらず減価償却費が控除され、他方、貸借対照表の資産として計上される資産の取得費は一時に出金がなされるにもかかわらず、初年度の減価償却費を除き、費用として控除されません。これに対し、フリーキャッシュフローは、現実の出入金に合わせた調整を行うことになります。また、DCFでは、1年後の予想収益、2年後の予想収益、・・・n年後の予想収益とn年後に解散した場合の予想残余財産額を具体的に想定する点で、収益還元法(直接還元法)よりもきめ細かいといえます。

「将来予測される年度別収益を現在価値に割引いた合計」(PV、Present Value)は以下により算出されます。

将来予測される年度別収益を現在価値に割引いた合計

しかし、将来予測に基づく年度別収益や、それを現在価値に割り引くための「割引率」(一般利子率にリスク・プレミアムを加えた割合をいい、資本還元率に類似した概念です。)については、やはり紛争当事者間で納得のいく数字に収斂することは困難です。

DCF法の詳細は、江頭憲治郎教授の「株式会社法(第4版)」のpp.15-18に譲ることとし、ここでは「現在価値に割り引く」という考え方について簡単に説明したいと思います。

(A)現在1万円の配当をもらうことと、(B)1年後に1万円の配当もらうことを比較する場合、(A)の1万円で直ちに国債購入又は銀行預金をすれば、1年後には利息が付くので、(B)よりも(A)の方が得であることはすぐに理解できると思います。そして、現実の企業を想定すると、1年後には業績が悪化し配当が1万円に満たなかったり、1年以内に企業が倒産したり、赤字になって配当が全くもらえなくなったりするリスクも考えられます。このようなリスクも勘案した上で、「1年後の1万円」÷(1+r)=「当該1万円の現在の価値」と評価することができるrを「割引率」といい、1年後の1万円を1+rで割って、現在の金銭的価値を算出することを「現在価値に割り引く」といいます。

仮に割引率を10%とすると、1年後の1万円の現在価値は、
 1万円÷(1+0.1)=9090.90・・・
で、約9091円になります。

現在価値への割引は複利計算で行うため、2年後の1万円の現在価値は、
 1万円÷(1+0.1)^2 = 1万円÷1.21 = 8264.46・・・
で、約8264円になります。

3.配当還元方式

将来予測される株主が獲得する配当に着目して、株価の算定を行う方式です。配当のうち内部留保分を算定の考慮に入れるかによって、配当還元法、ゴードン・モデル法に分かれます。いずれも、資本還元率を始め、算式の各要素が一義的に収斂しないことが難点です。

(1) 配当還元法

1株の価格=(将来予測される年間配当額 ÷ 資本還元率)÷ 発行済株式総数

配当を継続して行っている会社では有効ですが、年間を通じて継続した配当を行っていない会社では、配当を予測することが困難であるため、この算定方法は向きません。

(2) ゴードン・モデル法

1株の価格=将来予測される年間配当金÷(資本還元率-投資利益率×内部留保率)

内部留保された利益が将来利益を生み、配当金は一定割合で増額するという仮定した上で、配当金の内部留保分の性質を考慮し、株価に反映させます。
投資利益率(Return on Interest、ROI)とは、投資金額に対し1年間に生み出す利益(税引後純利益)の額の割合をいいます。内部留保率とは、税引後当期純利益のうち、株主への配当に回さず、会社内に留保して利益剰余金として計上する割合をいいます。

4.比準方式

類似の会社、事業の資産や利益等の複数の比準要素を比較することによって株価を算定する方法です。適切な比較対象となる上場会社が複数ある場合には、市場での取引環境の反映ができ、有効な算定方法といえます。しかし、同業種内での浮沈が常である現実を勘案すると、比較対象との比較の合理性には疑問が残ります。
相続税に係る財産評価基本通達にある類似業種比準方式における基本的な算式は以下のとおりですが、さらに様々な調整が行われます。

1株の価格=A×〔(b÷B)+(c÷C)×3+(d÷D)〕÷5×斟酌率

A 類似業種に属する会社の平均株価
b 被評価会社の1株当たりの配当金額
B 類似業種に属する会社の1株当たりの配当金額
c 被評価会社の1株当たりの利益金額
C 類似業種に属する会社の1株当たりの利益金額
d 被評価会社の1株当たりの純資産額(簿価)
D 類似業種に属する会社の1株当たりの純資産額(簿価)
斟酌率 大会社の場合 0.7、中会社の場合 0.6、小会社の場合 0.5

株価算定が争点となった裁判例

このように株価の算定方法は多数あり、いずれも一長一短があります。そのため、過去の裁判例でどのような判断枠組みが採用されているかが重要な意義を有します。過去の多くの裁判例では、複数の評価方法により算出された金額を一定割合で加重平均した株価を採用しています。これに対しては、「一つ一つが信頼に値しない数値を複数寄せ集めたからといって、信頼できる数値が算出できるわけのものではない。」(前掲・江頭15頁)との厳しい批評のあるところですが、以下では、株価の算定方法が争点となった近時の裁判例を紹介致します。

1.大阪高決平成1年3月28日(判例時報1324号140頁)

事案の概要

株式譲渡制限のある未上場会社(大手清掃具レンタル業者である株式会社ダスキン)において、少数派株主の譲渡承認請求を会社が承諾せず、株主が株式買取請求権を行使したものの、株主と指定買受人との間の協議が整わず、株式買取価格の決定が申し立てられた事件です。第一審裁判所は、配当還元方式のうちゴードン・モデル法を採用しました。

裁判所の判断

本決定は、原決定と同様に、配当還元方式のうち、利益および配当の増加傾向を予測するゴードン・モデル法によるのが適当であるとしました。本決定は、株価算定を行った各鑑定のうち、原決定が採用した鑑定とは異なる鑑定を採用した点で原決定に変更を加えました。

  • 継続企業は経済的に収益力により成長活動をなす側面と、土地等資産を所有する側面に分かれ、株式の化体する株主権もこれに対応して利益配当請求権と残余財産分配請求権に分かれるところ、下記(3)に例示する特段の事情のない限り、一般少数非支配株主が会社から受ける財産的利益は利益配当のみであり、将来の利益配当に対する期待が一般株主にとっての投資対象と解される。したがって、少なくとも会社の経営支配力を有しない(買主にとって)株式の評価は将来の配当利益を株価決定の原則的要素となすべきである。
  • 他方、現在及び将来の配当金の決定が多数者の配当政策に偏ってなされるおそれがないこともなく、右配当利益により算出される株価が一株当たりの会社資産の解体価値に満たないこともありうるので、多数者と少数者の利害調整して公正を期するため、右解体価値に基づき算出される株式価格は株価の最低限を画する意義を有するというべきである。
  • また、収益力を欠くとき、将来の配当金を予想できないとき、又は近く、会社の解散・清算、企業ないし遊休資産の売却の可能性が認められるとき、会社が協同組合的実態を有するときなど特段の事情がある場合は、二次的に会社の資産価値(解体価値又は企業価値)を算定要素として使用又は併用すべき場合がある。
  • 類似業種比準方式は、大量発生する課税対象に対し、国家が迅速に対応すべき目的で課税技術上の観点から考案された方式で、国家と国民の公権力の行使関係を律する基準であって、本件のように私人間の具体的個別的利害対立下で公正適正な経済的利益を当事者に享受させようとする商法204条の4第2項〔注:会社法144条3項に相当〕の理念とは異なるのみならず、標本会社の公表がなく類似性の検証が不可能であり、利益の成長要素が考慮されず、斟酌率の合理性が疑わしいため、本件のような譲渡制限株式の売買価格決定の単純又は併用方式における根拠方式となることは適当でない。
  • 収益還元方式は、将来各期に期待される一株当たり課税後純利益を資本化率で還元する方式であるが、右方式の純利益の中には内部留保として新たな設備投資などにつぎ込まれ、株主に対し直接経済的利益をもたらさないものが含まれている点、配当政策等企業経営を自由になしえない本件のような非支配株主の株価の算定には適当でない。
  • 純資産価額方式は、本件において会社の資産価値を算定要素として斟酌すべき前示特段の事情は認められないので、直ちに採りがたく、株価の最低限を確認するためを除き、採用すべき理論的根拠に乏しい。
  • 以上より、本件においては、将来の配当利益を算定基礎として評価する方法が最適というべきであるところ、配当還元方式は企業の成長予測が反映されず単純すぎ採用できず、結局右利益及び配当の増加傾向を予測するゴードン・モデル式によるのが適当というべきである。
  • 本件では、政府保証長期公社債の応募者利回り6.22%に、市場性欠如によるリスク・プレミアム50%、譲渡制限によるリスク・プレミアム10%を加算し、資本還元率は0.1026となる。
     資本還元率=0.0622×1.5×1.1=0.1026
  • よって、将来予測される年間配当金=150円、投資利益率=0.101、内部留保率=0.699とする鑑定意見を採用し、本件の1株当たりの株価は4687円と算出される。

2.東京高決平成20年4月4日(判例タイムズ1284号273頁)

事案の概要

本件は、株式譲渡制限のある非上場会社(デジタルコンテンツ配信事業)において、株主(申立人)の譲渡承認請求を会社が承諾せず、他の株主(相手方)が買受人に指定されたところ、買取価格について合意に至らなかったため、売買価格の決定が求められた事件です。本件は、鑑定によらず、裁判所が独自に株価を算定した点に意義があります。
本件会社は、平成14年9月から事業を開始し、相手方が3600株(60%)、申立人が2400株(40%)を保有しており、申立人の2400株全て(本件株式)が譲渡の対象になっていました。
第一審裁判所は、本件会社は、清算が予定されておらず、今後の収益も見込めること、また、含み益がある不動産が存しないこと等を考慮すると、収益還元法が算定方法として相当であると判断しました。

裁判所の判断

本決定は、収益還元法のみを算定方法として採用した第一審の判断を支持し、抗告を棄却しました。

  • 本件会社は、相手方が過半数の株式を有し、経営権を有している。他方、本件株式は発行済株式総数の40%に当たり、その株主は株主総会の特別決議を拒否できるから、本件会社の経営に一定程度の影響を及ぼすことができ、しかも、申立人から相手方に本件株式が移動することによって、相手方は本件会社を完全に支配することができることになる。したがって、本件株式については、経営権の移動に準じて取り扱い、この場合に用いられる評価方式である純資産方式または収益還元方式を検討すべきである。
  • 本件会社では、配当を実施したことがなく、将来配当を行う予定はないのであるから、配当還元方式を採用する基礎に欠けている。
  • 本件会社は、創業してさほど年月が経過しておらず、資産に含み益がある不動産等は存在しないこと、ベンチャー企業として成長力が大きく、売上は順調に推移しており、その事業の進展の経緯からすれば、平成18年3月期、平成19年3月期と同様に、その後も同程度の利益が確実に見込まれるものである。したがって、純資産方式を採用すると株式価値を過少に評価するおそれがあり、純資産方式は併用することを含め採用するのは相当ではなく、収益還元方式によって評価するのが妥当である。
  • したがって、本件株式1株当たりの価格を収益還元方式により1万2929円と定めた原判決の判断は相当である。

3.広島地決平成21年4月22日(金融・商事判例1320号49頁)

事案の概要

本件は、株式譲渡制限のある非上場会社において、株主の譲渡承認請求を会社が承諾せず、会社自らが買い受けることとしたが、買取価格について合意に至らなかったため、裁判所に売買価格の決定が求められた事件です。
資本金1億2000万円、発行済株式総数240万株、株主資本約71億円、総資産約120億円、直近3期の売上高約60億円の会社でした。
株主は、議決権比率で26.17%を保有していますが、法令上の「支配株主」ではありません。
そして、株主側は、DCF法による株価(5481円から6097円の平均額5789円)と純資産方式による株価(4921円)を1対1の加重平均によるべき(4921円)と主張し、会社側はDCF法による株価(2038円から2640円の平均額2339円)とゴードン・モデル法による株価(376円から447円の平均額411円)を1対1の加重平均によるべき(1375円)と主張していました。

裁判所の判断

  • 以下の事実は、株式の評価に当たって前提となる。
    • 会社が相応の規模を有する企業であって、容易に清算できない継続企業であること。
    • 会社が非上場会社であって、譲渡制限が付されていること。
    • 株式買取請求権を行使した株主の経営関与の度合い(支配株主、有力株主又は一般株主のいずれに当たるか)。当該株主が会社の支配権を有している場合は、一般に対象会社の価値を基礎に評価すべきことになると解されるが、他方で、持株比率が小さいなどの事情により会社への経営支配の割合が弱い場合には、配当受益権の価値などを評価に斟酌すべきと解される。
  • 会社法第144条第2項及び第3項の規定から、直ちに会社における純資産の多寡を基調として、売買価格を算定すべきことが導かれるものではない。
  • 当事者間にDCF法を用いることに争いがないことも考慮の上、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法は、収益方式の代表的方法であるDCF法であるといえる。
  • 純資産方式は、事業継続を前提とする会社の評価方法としては単独で採用すべきではないことに加え、本件の会社の以下の事情に照らせば、同方式を考慮することも相当ではない。
    • 相応の規模を有する企業であって、もとより解散が予定されていない。
    • 相応の遊休資産を有しており、その売却も予定されていない。
    • 株主は解散決議を行うだけの議決権を有しておらず、かつ、会社に対する経営支配力を有するとはおよそ言い難い。
  • 会社は直近3期につき配当を継続しており、配当性向16.4%は他の上場企業と比べ特に不合理とは考えられないことから、ゴードン・モデル法を採用することに特段の支障はない。
  • 株式の売買を相対で行う場合には、一方の交渉力が他方を上回るのが一般的であるが、本件は会社法の規定により株式の買取価格を決定するものであるから、双方の対応の立場で評価すべきであり。清算の予定がなく、株主が経営支配力を有していない場合、売り手の立場から最も合理的な評価方式は配当還元方式(ゴードン・モデル法)である。また、買い手の立場からは、継続企業の動的価値を表す最も理論的な方法であるDCF法を採用せざるを得ない。双方対等の立場を前提とすれば、本件では、DCF法とゴードン・モデル法を1:1で折衷する方式を採用すべきである。
  • 会社側から提出された株式価値算定書によるDCF法の算定過程は合理的であり、その結果(株価2339円)は相当である。これに対し、株主側から提出された株式価値算定書によるDCF法は、割引率の算定過程が明らかではなく、この割引率を前提とする企業価値(EV、Enterprise Value)によるEV/EBITDA倍率は類似の上場企業と比較し、2倍以上高くなっており、採用することができない。
    〔注:EBITDAは、イービッダー、イービットダー、イービットディーエー等を読まれ、近時、事業再生やM&Aの分野で利用されている概念です。EBITDAは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略で、税引前当期純利益に、特別損失、支払利息、有形固定資産減価償却費と無形固定資産償却費を加算し、特別利益を減算したものです。〕
  • 会社側から提出された株式価値算定書によるゴードン・モデル法の算定過程に特段の不合理な点はなく(算定結果 株価411円)、株主側から上記の算定の具体的過程について特段、反論等はされていない。
  • よって、会社側から提出された株式価値算定書によるDCF法の結果(株価2339円)とゴードン・モデル法の結果(株価411円)を1:1で折衷し、結局、本件株式の1株当たりの売買価格は1375円になる。

4.福岡高決平成21年5月15日(金融・商事判例1320号20頁)

事案の概要

本件は、株式譲渡制限のある非上場会社において、株主の譲渡承認請求を会社が承認せず、会社が指定した買取人と株主の間の売買価格の協議が調わなかったため、裁判所に売買価格の決定が求められた事件です。
原決定は、DCF法を、事業収支計画の予測や投資利益率の決定が困難であるとして排斥し、平成17年3月期決算及び平成18年3月期決算に基づく純資産価額法による各株価の中間値である7万5000円を株価としました。

裁判所の判断

  • 一般に、株式売買価格決定事件における株価算定法は、併用方式と呼ばれる手法が判例上の算定法であるが、その具体的意味は、株価評価基準日において斟酌すべき複数の評価法があるとき、裁判官の総合評価はそれらの按分比率によって算定表示されるというものである。純資産額に基づき評価時期の異なる評価結果を按分した原決定に合理的な根拠は見いだせない。
  • 各評価方法は、それぞれ一長一短があるので、結局は、対象会社の特性に応じた株価算定をするしかないのであるが、一つの評価方法だけを選択して算出した場合、その短所が増幅される危険があるので、対象会社に適合すると思われる複数の算定方式を適切な割合で併用することが相当である。
  • DCF法は、事業収支計画の予測(課税後純利益の予測)や投資利益率(割引率)の決定に困難を伴うが、継続企業価値の把握について客観的に表示されるキャッシュフローに着目する点で優れており、本件株価の算定に当たって、DCF法を全面的に無視することは許されない。
  • 純資産方式は、一般には、会社が近い将来解散する可能性が高いなどの特段の事情がない限り採用すべきではないとされるが、客観的資料である貸借対照表上の純資産に着目して、会社価値を算定することは無意味でなく、他の評価方式に依存することに少なくない危険性が認められる場合には、むしろ同方式を基本にして算定するのが相当である。
  • 本件事情を総合考慮すれば、本件における株価の価格算定にあたっては、DCF法と純資産価額法を併用した(ただし、DCF法については、純資産価額法との乖離が少ない本件鑑定書の価格22万6485円を採用する。本件鑑定書について、相手方から鑑定書が採用した市場収益率や割引率について反論がなされているところ、同反論を考慮しても、併用意見として採用する価値は失っていないものと考える。)うえ、その併用の割合は前者を3、後者を7とするのが相当であり、本件株式の1株当たりの価格は10万3261円となる。

5.東京高決平成22年5月24日(金融・商事判例1345号12頁)

事案の概要

本件は、会社法施行前の商法第245条の5に基づき、事業譲渡(営業譲渡)の株主総会での承認に反対した株主が株式買取請求権を行使したものの、会社との協議が整わず、株式買取価格(「営業ノ重要ナル一部ノ譲渡ニ係ル契約ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」)の決定が申し立てられた事件です(いわゆるカネボウ株式買取価格決定申立事件)。
第一審裁判所は、継続企業の価値の算定にあたってはDCF法が適切であると判断しました。

裁判所の判断

  • 営業譲渡や合併、会社分割において株式買取請求権が認められるのは、特別決議という多数決等によって決定され、少数派の反対株主としてはそれ以上不利益を被らないため株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置として位置づけられる。営業譲渡や合併、会社分割は、会社の財産処分として捉えることができるから、少数派の反対株主は、会社が清算されると同様、会社の全財産に対する残余財産分配請求権を有すると観念的には捉えることができ、その価値は、清算に際し事業が一体として譲渡される場合を想定した譲渡価値、すなわち、その事業から生ずると予想される将来のキャッシュフローの割引価値に一致すると考えるのが合理的である。
    これに対し、配当還元方式は、将来予想される配当の割引現在価値にだけ着目するものであり、残余の部分は支配株主に帰属することになるから、相当性を欠く。
    時価純資産方式は、清算を予定する企業の株式価格の算定には適するが、本件のように継続企業としての価値を評価する場合には適当でない。
    したがって、本件では、理論的観点から、DCF法を採用すべきである。
  • DCF法による現在の株式価値は将来の株式が生み出すであろう価値を織り込んでいるので、DCF法で算定した株式の価値に、更に今後の株価上昇に対する期待権を評価して期待プレミアムを上乗せするのは相当ではない。
  • (旧)商法第245条の5第3項の「公正ナル価格」には、営業譲渡がされたことによるシナジー部分は含まれないものである。
  • 営業譲渡や合併、会社分割における株式買取請求権は、少数派の反対株主としてはそれ以上不利益を被らないため株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれることに対する補償措置として位置づけられるため、マイノリティ・ディスカウント(非支配株式であることを理由とした減価)や非流動性ディスカウント(市場価格がないことを理由とした減価)を本件株式の評価に当たって行うことは相当でない。
  • DCF法による株価算定を裁判手続上の「鑑定」により行った場合、裁判所は、必ずしも鑑定の結果に拘束されるものではないが、DCF法が極めて高度の専門的知識と経験を必要とする判断である上、純然たる将来の予測に関わるものであり、過去に生起した事実の認定判断に関わるものではないから、裁判所による鑑定結果の採否の判断は、基本的には、鑑定が前提とした事実に誤りがないか、前提とした資料の選択や専門的知識に基づく判断の過程に著しく合理性を欠く点がないかという観点から検討するのが相当であり、この観点に立って特に問題がなければ、鑑定の結果を尊重するのが相当である。
  • 本件鑑定に著しく不合理な点はなく、本件株式の買取価格は、本件鑑定に従って1株360円とすることが相当である。

未公開株式の株価算定については、法律事務所にご相談下さい

このように、近時の裁判例は、DCF法を株価算定の基本としながらも、あくまでも事例ごとに算定方法の相当性の判断を行っており、結論的には、株式買取請求訴訟における未公開株式の株価は、裁判官の裁量により算出されるといえます。そのため、裁判官を説得するための、高度な主張・立証技術が重要になります。
当事務所には、未公開株式の株価算定について豊富な知識と経験を有する弁護士が在籍しており、訴訟での複雑な主張立証にも対応が可能です。未公開株式の株価算定について、お悩み・ご質問がありましたら、日比谷ステーション法律事務所(03-5293-1775)にご相談下さい。

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